記事本文の続き 睡眠不足は肥満にとどまらない。メタボの先にある糖尿病につながることもシカゴ大の別の研究で示されている。この研究では、健康な若者11人が参加し、4時間の睡眠時間で6日間過ごした。その結果、11人とも耐糖能障害(ブドウ糖を処理する能力が落ちた状態)、糖尿病の一歩手前の状態になったという。その原因は血糖値(血液中のブドウ糖の量)を下げる働きをするホルモンであるインスリンの効きが悪くなる状態、つまり「インスリン抵抗性」に陥ったことになる。また、睡眠不足による過度の緊張から高血圧症になる可能性もあることも報告されている。
「メタボや糖尿病、高血圧、高脂血症などの治療を医師の指示どおりに行っている人で、数値や体調が思うように改善しない場合に、睡眠不足が思い当たる人は、十分な睡眠時間を確保することで改善する可能性は高い」という。
◆無呼吸症候群の可能性も
肥満が助長されると、睡眠不足よりも怖い、睡眠時無呼吸症候群(SAS)にかかる可能性が高まる。「肥満により、のどが狭くなり、寝ると気道がふさがれてしまうのが原因だ。欧米では9割、日本でも6割の患者が肥満でSASを引き起こしている」
SASは、睡眠時に10秒以上呼吸が止まる状態が1時間に5回以上起こると診断される。1回の無呼吸状態が1分以上になる人もまれではなく、2分くらい止まっている人もいる。
日大医学部睡眠学・呼吸器内科学分野の研究によると、SASの重症度が上がれば上がるほど、メタボを併発している割合は増え、重症のSASの場合は、約4分の3がメタボを併発している。SASという病態そのものがメタボを起こしやすいことが分かってきた。
それでは、理想的な睡眠時間は、どのくらいだろうか。一般的には7時間がベストだとされているが、赤柴教授によると、個人差があるので一概にはいえないという。
「多くの研究では、平均睡眠時間が7時間の人が、最も死亡率が低いという結果になっている。しかし、個々の人に必要な睡眠時間には幅があり、多くの人は6~8時間くらいの間だ。確実に異常といえるのは5時間以下、10時間以上の睡眠で、多すぎても少なすぎてもよくない」(赤柴教授)
ただし、高齢者になると睡眠時間は減り、質も落ちるので、時間を気にしすぎる必要はないという。逆に子供、とくに小学生ぐらいまでは10時間くらい寝るのはごく普通のことで、発育の関係でもいいそうだ。
睡眠が不足すると集中力が欠け、仕事ばかりでなく、生活するのに必要な日常のあらゆる動作に不具合が生じ、生活の質(QOL)が阻害される。そして不眠が続くと、鬱病になりやすくなる。鬱病患者の症状で最も多いのが、睡眠障害だ。睡眠障害は、ベッドやふとんで横になっている時間は十分でも、眠れない、眠った気がしない、眠りが浅い、そのため日中に眠くて仕事がはかどらないなどの問題を抱える状態、つまり質の悪い睡眠になってしまっている。「これらのことに思い当たる場合は、専門医を受診した方がいい」と赤柴教授は話している。(取材協力 タニタ)
【プロフィル】赤柴恒人(あかしば・つねと) 昭和50年、日本大学医学部卒。米ワシントン大学ハーバービューメディカルセンター留学などを経て、平成19年4月、日大付属板橋病院睡眠センター長、同年8月に日大医学部内科学系睡眠学・呼吸器内科学分野教授に就任
◆眠りの「質」も大切な要素 簡易検査機器で自ら管理
睡眠は健康の基本で、体に休養を与えて、翌日の活動に備えられるものだ。理想の睡眠を得るにはどうしたらいいのだろうか。
睡眠中は、生命活動に必要な代謝量が、起きているときに比べて落ちる。赤柴教授は「睡眠時の呼吸の回数や血圧、脈拍などの循環器系の活動量は、日中に比べて10~15%落ちることが各種の研究によって分かっている。このように活動を抑えて十分休養を与え、昼間に活動できるような心身の状態にするのが理想的な睡眠といえる」と語る。
睡眠には、体は休んでいるが脳は活動しているレム睡眠と、体も脳も休んでいるノンレム睡眠があり、人は眠っている間にこの2つの睡眠を繰り返している。睡眠のリズムができれば、良い睡眠となるのだが、実際には寝付きが悪かったり、途中で目覚めたりすることも少なくない。
理想的な睡眠を得るには、「時間」はもちろん、「質」も大切な要素となる。
睡眠の質を高めるには(1)毎日同じ時間に起きて生活のリズムをつくる(2)寝る前にぬるめの風呂に入る、軽いストレッチをするなどしてリラックスする-ことが大切という。(1)をなかなか実践できない人は、自分の生活習慣や仕事時間などを抜本的に見直して、睡眠時間を確保することも必要だ。(2)は、血行を促進して体温をやや上昇させ、眠るときに体温をやや下げると、快眠につながる。子供は眠気が出ると放熱し、やがて自然と体温を下げる。子供はこの快眠のメカニズムをごく自然に働かせているので、あえて睡眠前に体温をやや上昇させる必要はない。
ただ、そうした努力をしても、不眠や睡眠障害という状態になることはある。
その場合は専門病院で、睡眠状態を知る終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査を受けた方がよい。被験者は1泊入院し、脳波、呼吸状態、動脈血酸素飽和度、体位、心電図などを測定する。検査自体は痛みなどを感じるものではないが、さまざまな機器を体に取り付けたまま長時間過ごす必要があるので、煩わしかったり、苦痛に感じる人も中にはいる。
そうしたこともあって近年、自宅で、基本的には寝ているだけで検査ができる簡易型の睡眠計を各メーカーが開発し、販売されている。赤柴教授は「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断は、PSGで正確にはかる必要がある」と前置きしつつ、「簡易検査機器だと苦痛もなく、気軽に調べられる。簡易検査機器では医療的な診断はできないが、病院に行くべきかどうか悩んだ場合のスクリーニング(病気でない人をふるい分けること)には有用になる可能性がある」との見解を示す。
睡眠は1日の約30%を占める大切な時間だ。日々工夫して適切な良い眠りを得ていくことは忙しい現代でますます求められている。
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